監督・脚本はウディ・アレン。最近だと絶賛された『ミッドナイト・イン・パリ』が思い浮かびますね。
『ミッドナイト・イン・パリ』は2012年公開の作品で、国内外でも絶賛。
パリに来た主人公が夜中のパリの街を散歩していると目の前に馬車が止まる。
ひょんなことからそこに乗り合わせ、しばらくして降りてみると、そこは過去のパリだった。
バーにはヘミングウェイやピカソなどの偉人が普通に存在していて、作家の主人公はこの時代に魅了されます。そして、現在の世界にすこしうんざりしていた主人公はずっとこの時代にいようかと考えますが、
この過去の時代に生きる偉人たちも今を嘆き過去を羨んでいることを知り、人は今をないがしろにし過去を美化する傾向があるということ、そしていつの時代を生きても過去はよく見えるという真理を悟ります。 主人公は結局は現在に戻って生きることを選ぶ、といったお話です。
ウディ・アレン監督の得意パターンの一つ、ゆるゆるとした空気感、昔っぽいヨーロピアンな雰囲気たっぷりの映画です。
ウディ・アレンのこうしたほんわかした雰囲気や、ベタな設定、甘ったるい展開があまり好きでない人もいるかと思いますが、この『ミッドナイト・イン・パリ』はこれまでのウディ・アレンのちょっと斜に構えた世間の見かたというか、諦きめに似た価値観みたいなものが出てはいるものの、ラストはハッピーエンドというパターンだったのが大衆ウケの要因だったのかもしれません。
そういった意味では、今回の『マジック・イン・ムーンライト』も同じタイプと言えるでしょう。
今回のテーマ『マジック・イン・ムーンライト』の大まかなあらすじはこうです。
主人公は一流のマジシャン。その主人公が旧友のマジシャンにあることを依頼される。
それは、アメリカのとある富豪一族が一人の女性霊能者にいいようにカモにされているから、その女性霊能者の嘘を見破ってほしいというもの。
しかし、いざ富豪の家に出向きその女性霊能者に会ってみるとこれがなかなかの強者だった。そして、とても綺麗な女性だった。
主人公は何度も過去を当ててみろと、探りを入れるが、女性霊能者はことごとく過去を言い当ててしまう。
主人公もついに降参し彼女を本物だと認めるようになった。加えて、あの世の存在があることに救いを見出すようにもなり、前よりも少し温和になった。
そうした心境の変化から、徐々に女性霊能者に親しみを覚える様になり、二人はなんとなく、特に主人公は無意識的にだが惹かれあう様になる。
しかし、ある出来事をきっかけに彼女の霊能力が実は偽物だったことが判明し、主人公はショックを受けます。そして二人は喧嘩をし、関係が終わったかに見えました。
しかし、そうなったからこそ主人公は自分の彼女への想いに気づきます。そして、決死の想いで彼なりの告白を試みますが…
ネタバレになるのでこの辺にしときますが、ざっくり言うとこんな話です。
女性霊能者を見破るためにやってきた一流のマジシャンである主人公スタンリーを演じたのは『英国王のスピーチ』で吃音の英国王を演じたコリン・ファース。
そしてインチキ女性霊能者ソフィー・ベイカーを演じたのは、アメイジング・スパイダーマンのヒロインでもお馴染みの、青い瞳のエマ・ストーン!
この映画は先述した『ミッドナイト・イン・パリ』の様に、やはり諦観みたいなものが作中に漂っています。その象徴と言えるのが主人公の性格です。
皮肉屋で行き過ぎとも言える現実主義者。常に小言を言っている様な人です。しかし、本作はそんな諦観の持ち主が一度振ら絶望しながらも、最後の最後には希望を見ます。だから、鑑賞後の感覚は悪くなく、むしろ爽やかです。
そういう点で『ミッドナイト・インパリ』と似てはいますが、それよりも、だいぶラストが甘くなっています。笑
この甘ったるいラストで「本作はイマイチだ」と思う方も結構いるんじゃないでしょうか?
確かにちょっと強引なラストな気もしました。また、実はこの主人公にはフィアンセがいる設定(冒頭のワンシーンでしか出てこない)なので、主人公とヒロインのソフィーが結ばれることで、主人公とフィアンセの婚約が破棄になってしまいます。にも関わらず、その事実が非常に軽くあっさりとしか描かれていないので、そこが気になった方も多いのではないでしょうか。
事実、私も「お前らはハッピーだろうが、確実に泣いてる人(主人公の元フィアンセ)がいるんだよ!」という風に思いました。
しかし、これこそ「すべての幸せは不幸せの上に立っている=すべての人が幸せになるのは無理」という諦観的なメタファーなのか、という気もしました。
そう考えると、単に甘くて爽やかなだけなラストではなくなりますね。
また、この映画を魅力的にしている大きな要因として、コリン・ファースの演技と、エマ・ストーンの可憐さがあります。
まず、コリン・ファースですが、なんか彼の演じるおっさんはいつもどこか欠点があって、だけれでもそこがチャーミングなんですよね。
今回は、黙っていればダンディーな男なのに、皮肉を言わずには言られない。そして、不器用で自分の気持ちさえも疑って、ヒロイン・ソフィーへの想いにもうまく気づけない。
そんな男を見ていると非常に愛らしく思えました。
また、エマ・ストーンは非常に魅力的でした。豊かな表情にほんのり香るセクシーさと優雅さ、また醸し出される知的さがありました。確かに、こりゃ惚れるし、騙されるわ。てか、騙されたい。笑
いろいろ書きましたが話は全然面白いですし、全体的に昔ぽい絵作りで非常に雰囲気がありましたし、舞台の南仏の海や緑の景色も綺麗でした。時間も97分とちょうどよし。
名作中の名作!というよりは、日曜日や祝日の昼下がりに見てまったりするのに最適な一本、という感じでしょうか。
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