『舟を編む』〜これぞ邦画の底力〜

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会社で働くことに疲れた…。という時に、どんな作品を観たくなりますか?自分たちの生きる世界とはまったく違う異世界を描くSFモノ?

この世の話だけど、日常生活では体験できないようなスリルを味わせてくれるアクションモノ?
確かに、しんどい現実とは一線を画す世界観で、われわれをつらい局面から一時的に逃避させてくれるそうした作品もいいけれど、仕事をする上でで傷ついたり落ち込んだ時には、それこそ仕事モノの映画で元気になるというのもアリではないでしょうか。
今回オススメする映画は『舟を編む』。これは会社で働くサラリーマンが主人公の正真正銘の仕事モノ映画だけど、経済モノ・企業モノと言われるような堅くて筋肉質な作品ではないのです。
仕事というものには、人の思いがいかに乗っかっているか、それが強く感じられて心を打たれる作品になっています。
観終わったら「しゃあない、明日もなんとか頑張るか」と思える作品とでもいうか…。

物語はとある出版社の辞書編集部の部屋から始まります。
そこで、中年の男と老学者が神妙な面持ちで向かいあって立っています。
中年男の方、荒木公平が会社を退職することになるらしくその報告をする、そんなシーンです。
ところで、辞書編集部とはなにか。読んで字のごとくまさに辞書を作る部署です。
辞書作りというのは言語に関しての膨大な知識やセンスを用いられる割に、地道な作業が多く、同じ紙媒体でも雑誌や文庫などに比べて社内的にも人気がなく人が集まらない部署でした。
そんな辞書編集部一筋で40年近く働いていた荒木公平の退職は、なかなかの問題だったわけです。
そこで、荒木は自分の代わりとなる人材を社内から発掘してくることになります。
目をつけられたのが、本作の主人公である馬締(マジメ)光也(松田龍平)。
馬締は20代後半くらいの営業部員であったが、極度のコミュニケーション力の乏しさによってなかなか営業の成果をあげられずいました。
しかし、大学院時代に言語学を専攻していたこともあり、言葉に関するセンスは普通の人と違い、光るものがありました。
そこを見いだされ辞書編集部に引きぬかれることになります。不器用でコミュニケーション下手な馬締でしたが、持ち前の集中力と没頭力を発揮し、地道に辞書作りに励んでいくわけです。

とまあ、この内容がこの映画の話の大きな流れです。
ただ、この映画はこのメインストリーム以外にもサブストリームの話がたくさんあります。
そして、サブのひとつがひとつがとてもいい味を出しているのです。
馬締の恋模様や、 
 
同僚の一見チャラいが対人折衝能力は非常に高い西岡(オダギリジョー)との男同士の絆が感じられる「西岡の異動のエピソード」。

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他にも老学者の松本先生の病気、女性雑誌編集部出身の新人の成長など多くのエピソードが盛り込まれた作品になっています。
これら各自のエピソードが絡み合っていく、というよりは単に次々とエピソードが展開されていく。
この「ポンポンとエピソードが生まれては次のエピソードが出てくる」といった作りがいいんです。
前後間で布石があってそれを回収、みたいな計算された作りでない分、リアルさがあるんです。
なぜか言うと、実際の人生では布石を打ったり伏線を張ったりはしないし、仮にそうしてみてもうまく回収できることはあまりないと思からです。
人生はなかなか思った通りいかない。だって人生は予想外のことが起こるし、思っていないところに辿り着いたりもする。
だから、たくさんのキャラのたくさんのエピソードを次々と並べていく作りには「実際の人生って、そういうもんだよね」と思わせてくれるものがあります。
“あっ”と驚く仕掛けや伏線は無く、いくつもの無作為なエピソードが繋がっていくだけ。人生はこの映画の構成そのものだ、と思いました。
辞書作りは何年、何十年もの時間がかかるわけで、それはつまり人生を捧げるに近いということ。
だからこそ、辞書作りの始まりから終わりまでを描いたこの作品には、人の人生の大部分が映っている。

またこの映画を観ていると「言葉」というものを今一度考えるようになります。
普段、何気なく話している言葉には、古代から使われいるような長寿の言葉もきっとあるのだろうけれど、生まれてはすぐに消えていく言葉達だっているわけで、現代文の教科書の注釈に載っているような厳格な言葉もあれば、流行語や造語もある。言葉には実に色々なタイプがあると実感しました。
僕たちは、意味をなんとなくしか知らないような言葉も、文脈で判断して使うことができるけれど、実はその言葉の本来の意味を深く考えてはいなかったりします。
作中に馬締が「恋」の語釈に頭を悩ませるシーンがあるが、まさにこれはそれです。
無造作に使っている言葉でも、人に説明するために深く考えてみたりすると、なかなかその言葉に適した表現が思い浮かばない。馬締の場合はその言葉(「恋」)を実際に経験し、心で感じることで語釈を書くことができました。

※馬締が「恋」の語釈をどう書いたかはぜひ映画を観て確認してください。
また、特に老学者の松本の台詞がそうでしたが、この作品は台詞への気遣いも素晴らしい。
とにかく、辞書編集部の面々は曖昧な日本語の表現を使わないのです。
外来語や和製英語、日本語の方が短くてわかりやすのにやたらと英語を使うのが目立ってきた昨今。
この映画は日本語の存在感を今一度知らしめてくれる作りもになっています。
ただし、作中で作っている辞書「大渡海」では、一方で外来語や和製英語、造語や本来の日本語の誤用なんかも真剣取り扱ったりしているので、厳格な日本語だけに着目しているわけではない。なんというか、今まさに日本で使われている全ての言葉に真摯に向き合っているのです。生まれてはすぐに消えていく言葉達だっていると先述したが、今、生きてる言葉たちをしっかりと捕まえていく、そんな作りでした。
なお、馬締役を演じた松田龍平、西岡役のオダギリジョーは名コンビでした。
また、荒木公平役の小林薫、老学者の松本朋佑役の加藤剛、佐々木薫役の伊佐山ひろ子といった他の辞書編集部員も素晴らしかったです。他にも素晴らしいキャストがたくさんいます。

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ぜひともご鑑賞あれ。

 

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