乃木坂46は、他の秋本康が企画するAKB48系のアイドルグループとは少し毛色が違った存在だ。
なぜならば、彼女たちは「AKBの妹分」ではなく「AKB48の公式ライバル」だからである。
「AKB48の公式ライバル」という立ち位置は、乃木坂のメンバーたちにデビュー前から強烈な重圧を背負わせた。
2011年「乃木坂46」のメンバーを決定するオーディションが終了した直後の映像を見る限りでは、まだ合格したことを親や姉弟や友達にのほほんと電話で伝える姿が見られるが、その後のレッスンシーンや、ホテルと稽古場を往復する生活を映すシーンになると、みな表情がこわばり徐々に現実味を感じ始めているのがわかる。
「自分たちは”乃木坂46”になったんだ」と。
つい数ヶ月前までまったくの一般人だった彼女たちにとって、今や国民的アイドルの「AKB48の公式ライバル」という立ち位置がいかにプレッシャーだったか。
映画の序盤にある、AKBのライブ途中に行われた「乃木坂46のお披露目ライブ」の際の生駒里奈の挨拶映像でそれが強烈に伝わってくる。
挨拶終了後のメンバーの映像も、ひとまず挨拶を終えた安堵感とこれからの活動への意気込みとが混ざり合った様子を映しだしており、いかに精神的に追い込まれていたかがわかるとともに、彼女たちの”マジ度”が伝わってくる。
今回の映画は、乃木坂の主だったメンバーたちを順々に紹介していく作りになっている。
前半は、学校や家族や友達との出来事を中心に、アイドルになる前のメンバーたちの物語が本人の語りによって伝えられていくわけだが、意外だったのは過去を話す彼女たちの誰もが”すごく楽しい人生”を歩んできたわけではない、ということ。
普通に考えたら恵まれた容姿をしているだけでも通常より人生で得をすることが多い気がするが、彼女たちのこれまでの人生は傷つくことや苦しいことの方が多かった様に感じられた。
初代センターの生駒里奈は中学校で目立たずおとなしく生きてきたと語り、2代目センターの白石麻衣も登校拒否になっていた学生時代を話していた。また、橋本奈々未に関しては北海道から上京した学生時代、バイトを掛け持ちし生活費を稼ぎながら大学で勉強する日々にボロボロになっていたことを明かす。
これらの話を聞いていると、あることに気がつく。
彼女たちは、きっと当時の自分を変えたくて乃木坂46のオーディションを受けたのだ、ということである。
タイトルの「悲しみの忘れ方」の意味を考えてみても、「過去=悲しみ」と自らが乃木坂46になり成長していくことで「決別する=忘れる」ということなのだと感じた。
乃木坂46になり、成長し、過去の自分から変わっていくこと。そうすることで過去の悲しみを忘れられるのだ。
この映画の基本的な構造は各メンバーの母親たちが、自らの子供たちの挑戦とそれによる変化と成長についてをナレーションしていく形式をとっている。
この母親目線という構造自体が今の乃木坂46というグループの状態を如実に表している。
結成からもうすぐ4年。芸歴としては決して長くなく、またAKB48の様な小劇場での下積み期間もない。
彼女たちに恵まれた容姿やスター性があることは間違いないが、乃木坂46がまだまだ成長途中のグループであることもまた間違いない。
国民的な人気を確立したAKB48がもはや完全に自立した大人だとしたら、乃木坂46はまさにいま成長期であり子供と大人の中間的な存在と言えるのではないだろうか。
つまりちょうど親から巣立つ間際のタイミングと言える。
乃木坂46という生命体の「誕生」と成長し「自立」していく様を描いているからこそ母親目線で作られていることにも納得できる。
次に映画の部分部分を切り取った話をしていくと、
特に印象に残っているエピソードはやはり生駒里奈の話だ。
生駒里奈は乃木坂46の初代センターであり乃木坂を代表する存在といっても過言ではない。
それほどの中心人物にもかかわらず、彼女は小学校までいじめられており中学生のころは本人いわく「学校内ヒエラルキーの一番底辺にいた」とのことだった。
「地味に目立たなくしていればいじめられないから」と本人が語っていた通り確かに作中にでてくる中学時代の写真は控えめな印象のものが多かった。
考えてみてほしい。中学時代は自他ともに認める目立たなかった子がたった1年後には日本を代表するアイドルの一人になっているのだ。この事実には映画を観ていて思わず鳥肌がたった。
ありふれた表現だが「人生は何が起きるかわからない」。
大抵の場合、人生は何も起きずに終わっていくことが多いのだろう。でもたまにこんな想像を超えた出来事が起きることもある。そう感じさせてくれたエピソードだった。
また、もうひとつすごいと思ったのは橋本奈々未の話だ。
橋本奈々未の家庭はどちからというと裕福ではなかったこともあり、彼女は東京の大学への進学費用も奨学金でまかなっていた。地元が北海道ということもあり、上京した際は一人暮らしの生活費も自らのバイトの稼ぎでなんとかしていた。
そんな彼女は学校とバイト漬けの日々に心身ともに擦り切れていたが、何かを変えなければいけないと思い乃木坂46のオーディションに応募して見事合格をした。
そんな苦労人の彼女が今後の目標を語るシーンが印象的だった。
彼女の目標は「今年中に家族に家を買う」、「来年度末に弟の進学のときの入学金を払う」というものだった。
これには驚いた。こんな若い年齢で地に足がついた金銭感覚と責任感。彼女はアイドルになり家庭を支えているのだ。
彼女からは背負っている者だけが持つ強さと厳しさが感じられる。この点は他のメンバーとは一線を画するものがある。
他にも生田絵梨花の多才さなど、見ていて「すごいな乃木坂46!」と思えるシーンがたくさんあった。
結成から4年が経過しようとしており、今年に入ってからはメディアへの露出が急激に増えた印象がある乃木坂46。各メンバーの成長、グループとしての成長、またメンバー1人1人のバックボーンを知ることができる本作品は、ファンならずとも楽しめるほどの人間ドラマがたくさん詰まった作品になっている。
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