『スポットライト 世紀のスクープ』
上映時、映画館でも観たんですけど面白かったんで、このたび動画配信で改めて観ました。やっぱりかなり面白かったです。
この映画はアメリカ中の神父が児童に対して性的虐待をものすごい件数でしていた、という驚くべき事実を明るみに出した『ボストン・グローブ』という地方紙の記者たちが主役の映画です(「スポットライト」とは『ボストン・グローブ』紙の特集コーナーのことだそうな)。
何が驚くかってこの映画『スポットライト 世紀のスクープ』は実話ベースの映画ということ。
「カトリック系の教会組織が、組織ぐるみで神父の性的虐待を隠蔽している」、「レイプをしている神父は世界中にたくさん(ボストンだけでも90人近く)いて、被害者は全世界で何千人もいる」ということが明らかになるシーンは衝撃でした。
あらすじ
2002年、ウォルター(マイケル・キートン)やマイク(マーク・ラファロ)たちのチームは、「The Boston Globe」で連載コーナーを担当していた。ある日、彼らはこれまでうやむやにされてきた、神父による児童への性的虐待の真相について調査を開始する。カトリック教徒が多いボストンでは彼らの行為はタブーだったが……。
スタッフ&キャスト
スタッフ
- 監督トム・マッカーシー
- 製作マイケル・シュガー/スティーブ・ゴリン/ニコール・ロックリン/ブライ・パゴン・ファウスト
キャスト
- マーク・ラファロ/マイク・レゼンデス
- マイケル・キートン/ウォルター・“ロビー”・ロビンソン
- レイチェル・マクアダムス/サーシャ・ファイファー
- リーブ・シュレイバー/マーティ・バロン
- ジョン・スラッテリー/ベン・ブラッドリー・Jr.
性的虐待の犯罪の特徴&加害者が神父という事実のせいで悪質性が倍に
今回の事件にかかわらず性的虐待という犯罪は被害者側が事件を明るみにすることを敬遠しがちですよね。自分が性的虐待をされたという事実を世の中に知られてしまうのは誰だって避けたいので当然だと思います。
しかし事件がなかなか表にでなかったのはそうした理由に加え、「よりによって神父がレイプをしていた」というのが大きいです。「神父は神の代理人」なため、神父を訴えると自分自身が信じていた宗教を否定することに繋がりかねないわけなんですね。
「性的虐待自体がもともと訴えずらい性質を持つ犯罪」&「やったのが神父でさらに言い出しづらい」というWパンチゆえ、これはほんとに悪質度が高い事件だと思います。
映画内の被害者が語る「”神に仕える神父という存在”に言われたら断れない」というセリフは信者の信仰心に漬けこむ卑劣さを強烈に感じる部分でした。信仰心に漬け込んで悪事を働くって、悪質な宗教団体と本質的にはやってることが同じですよ(´-`).。oO
これ以外にも、そもそも「教会が組織ぐるみで隠蔽できるシステム(弁護士を取り込んで示談にもっていく)」もあったため、さらに世に出ないような仕組みになってました。
ジャーナリズムとはなにか、を見た気がした
普段ジャーナリズムなんて言葉を口にしたこともないですが、この映画で綿密な取材、情報取集、調査をして世間に事実を知らしめる記者の姿を見て「もしかしてこれが真のジャーナリズムか(;゚д゚)ゴクリ…」なんて気も。
映画はこの事件の記事が世にでた日の朝で終わるんですが、「本当にやるべき仕事をやり、今後も徹底的に事件を解明していくぞ」という雰囲気のかっこいい感じで終わります。そういう意味では、「自分の仕事を高いレベルでやる」というお仕事映画としての面白さもありますね。
記者たちと観ている側のシンクロ率が高い
この映画で扱われてる事件自体は大問題となって世界中でけっこう知られているようですが、「どうやって明るみにでたか(なぜ気づいたのか)」はあまり知られていないそうです(私はこうした事件があったことすらこの映画を観るまで全然知りませんでしたが)。
そのためこの映画『スポットライト 世紀のスクープ』は「ボストン・グローブ」という地方紙の記者たちが事件にどう気づき、どのような経緯で世の中に出したか、その過程を描くのがメインになっています。
回想などが全くなく物語の時制は常に現在
基本的に「記者たちが取材・調査→事件の一端を知る→さらに取材・調査→新たな事実を知る」の連続で、たとえば被害者への取材シーンなどでも「被害者が虐待されている過去の回想シーン」や「イメージ映像など」がまったくでてきません。
過去に戻ったりせず、物語の時制は現在のままで進みます。
記者視点でのみ進む
また、記者の視点でしか物語が描かれないというのも大きな特徴でした。
追い込まれていく教会側視点や弁護士視点などのカットが全くなく、被害者視点のカットもない。どのカットにも記者たちの視点で撮られています。
ようは事件の全貌をわかりやすく説明する装飾のようなシーンがなく「記者が取材して話を聞いて、その情報をもとに全貌を明らかにしていく」といった作りになってます。
そのため「映画を観ている側は知っているけど、劇中の記者たちは知らない情報」がなく、両者の持ってる情報量がまったく同じなんです。
映画ではよく、映画を観ている側が「神の視点(主人公が知らない情報を知ってたりする立場)」になりがちですが、この映画はそれが全然ない。小説でいう一人称モノに近いかもしれません。
よって高いシンクロ率
この「時制も変わらず現在のまま」、また「記者たちの視点でしか映画が進まない」という作りは、必然的に映画を観ている側と記者たちとのシンクロ率が非常に高くなり”映画と完全に接続した感じ”というか、映画への没入度を上げる効果があったと思います(゚∀゚)イイネ
他にも見どころが
他にも、ボストンという地域はカトリック教徒が多く教会を叩くような記事はまずいのでは?という懸念や、色々な利害関係があって報道を止めたい人たちの声とどう向き合うか、身内に熱心なカトリック教徒がいる記者の葛藤など、注目するところがたくさんある映画でした。観て損はないです。
関連作品
『スポットライト 世紀のスクープ』の動画配信です。字幕版、吹き替え版の両方で観ましたがどっちもよかったです。吹き替えは俳優などを使わず声優さんのみの構成(だったと思う)で、全く違和感なくてよかったです。
字幕版
吹き替え版
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