『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の好き度
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、レオナルド・ディカプリオ、ブラット・ピット、マーゴット・ロビー、アル・パチーノと超豪華キャストで話題の1960年代後半のハリウッドを舞台にした映画です。
カルト教団の「マンソン・ファミリー」の一味が起こした女優「シャロン・テート」の殺人事件がテーマになってます。
シャロン・テート事件とは
1960年代にテレビドラマで人気になりはじめ、映画監督ロマン・ポランスキーの妻でもあった女優シャロン・テートが、カルト集団「マンソン・ファミリー」の一味に殺された事件。シャロン・テートは当時妊娠8ヶ月で、お腹の子供とともに惨殺されました。
音楽活動もしていた、カルト集団「マンソン・ファミリー」の指導者チャールズ・マンソンは、自身をメジャーデビューさせなかったプロデューサーに恨みを持っており、そのプロデューサーが以前住んでいた家に、次に住んだのがシャロン・テートだったとか。
「マンソン・ファミリー」の一味はそのプロデューサーを殺しにいったと言われており、シャロン・テートはなんの関係もないのに殺されてしまったという事件。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の感想
話という話はたしかに無い
この映画、直訳すると「昔々ハリウッドに…」というタイトルなわけですが、その名の通り、リック(ディカプリオ)とクリフ(ブラット・ピット)の昔(というほど昔でもないが)の1960年代のハリウッドでの日々が描かれていきます。
話らしい話は無く、リックとクリフのハリウッドでの2~3日間が切り取られたような作りになってます。
明快な起承転結はなく、クライマックスまでコレといったことは起こらないので、もしかすると、映画にしっかりとした「話の構成」を求める人にはけっこう苦痛な映画になりうるかもしれません。
劇的な事は何も起こらない日々
そんな『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』ですが、私は十分楽しめました。
というのも「劇的な事が起こらなさ」がとても良かったんです。
実際の私たちの人生って劇的なことなんてめったに起きないわけで、起きたとしても仕事のちょっとした失敗や成功や、人生を変えるほどじゃないけどちょっとした良い出会いとか、その程度ですよね。通常は何も起こらない日々が続きます。
だからでしょう、この映画の大半は私にとってとてもリアルに感じることができました。
1960年代という自分が全然知らない時代で、ハリウッドという旅行でしか行ったことのない街が舞台、しかも主人公たちは役者やスタントマンという全く関わりのない職業にも関わらず、彼らの日常をリアルだと感じられたのは、やはり彼らの日々に劇的な事が起こらかったからだと思います。
でも俯瞰して”長い目で見てみる”と、未来に繋がる出来事はちゃんと起きてるし、むしろそうした出来事の連続になってます。
そして時には、唐突にものすごいトラブルも起こるっていう…。
「人生ってこんな感じだよなー」としみじみ実感できた映画でした。
よくいう「無駄話シーン」は本作には無いけど、ラスト直前までの全シーンが無駄話シーンな気がする
タランティーノ映画を語れるほど詳しいわけではないですが、タランティーノ作品はよく言われるように長々とした無駄話が多い。
でも、今作に関して言えばその無駄話がほぼ無いです。あっても長くない。
過去のタランティーノ映画の「無駄話シーン」は話の本筋に関係ない様でちょっとある、という事が多かったですが、今作は、クライマックスまでのリックとクリフ、そしてシャロン・テートの何気ない日々の描写こそが、一見、本作のクライマックスとは関係なさそうで、実はある…という作りになっています(リックがロマン・ポランスキーを見たり、火炎放射器を使う役をやっていたり、クリフがマンソン・ファミリーの一員とコミュニケーションしたり、アジトに行ったり、など他にもクライマックスにちょっとずつ関連してるシーンが多い)。
つまり、本作はラスト以外の彼らのそうした「日常シーン」こそが、これまでのタランティーノ映画の「無駄話シーン」に近い役割を担ってると思います。
もちろん、これまでの「無駄話シーン」とは比べものにならないほど、長くて楽しい「無駄話シーン」になってるわけですが。
役者陣がやっぱいい
巷で話題になってる通り、この映画のブラット・ピットはかなりかっこよかったですね。
優しく、静かで、強く、そして哀愁を讃えてる「こんな大人になりてぇよ…」と思わせてくれる渋い男でした。
近年のブラット・ピットの私生活のゴタゴタもある分、余計に渋みを感じてしまいましたね。
ただ、個人的にはディカプリオ演じるリックの方が好きかもしれません。
すぐ怒る、すぐ泣く、酒に溺れる。
でも役者の仕事が好きで、クリフとの友情も大事にしてる。なんかダメなヤツなんですけど、可愛くて憎めない、そんなキャラクターになってました。
マーゴット・ロビー演じるシャロン・テートも良かったですね。
女優と聞くとけっこう強そうな、エグそうな、イメージがありますが、こんなピュアで可愛らしい人もいるのか…と思っちゃうような人で。
特に自身が出演した作品を映画館に1人で観に行くシーンで、チケット売り場のスタッフに自分がその映画のキャストだと全く気づかれないから、自ら「出演者です」と言っちゃうシーンとか。
その後、写真を頼まれたときに映画館のスタッフに「出演作のポスターと一緒じゃないと誰だかわからないから」と言われてポスターの横に素直に行くシーンとか、本当に可愛くて。
「ああ、この人はまわりから好かれてたろうな…」としみじみ伝わってきて、最高でしたね。
ラストはタランティーノ節炸裂
本作は最近のタランティーノ作品の『イングロリアス・バスターズ』や『ジャンゴ』の様に、ラストは史実とは異なり、タランティーノ節が炸裂します。
史実ではシャロン・テートはマンソン・ファミリーに殺されてしまうわけですが、本作ではマンソン・ファミリーの一味は、シャロン・テート宅の隣にあるリック(ディカプリオ)宅に押し入り、一緒に飲んでいたクリフ(ブラット・ピット)と、彼が面倒を見ていたリックの愛犬によって返り討ちにあい逆に殺されます(そして、とどめはリックが刺す!)。
過去のタランティーノ作品を観ている人には予想がついた展開だと思いますが、観てない人にはびっくりの展開ですよね。
史実を知ってる人は「ついにシャロン・テートが殺されてしまう夜がきたか…」と思ってたら、まさかの返り討ちでのハッピーエンドですから。
せめてフィクションの上では悪モノをスカッとぶっ殺してやれ!という気持ちと、タランティーノ自身がインタビューで言ってた「シャロン・テートをすこしだけ墓から出してあげたかった」という気持ちからのとんでも展開。
私は『イングロリアス・バスターズ』や『ジャンゴ』を観ていたので予想通りではありましたが、それでもあのラストは愉快で、また、ちょっと温かい気持ちになりましたよ…。
何気なくダラっと続く日常に思えても、ある出来事に繋がってたりする…。
「それって我々の人生そのものだな!」と思える作品でしたね。
2時間半、けっして味付けが濃厚な映画じゃないけど、クライマックスまでずーっとぼんやりとした味付けの映画だからこそ、何回でも観れるし、クセになる作品でした。
休みの日にダラっと部屋で流しておきたい映画です。
関連作品
タランティーノ監督作品でラストが史実とは違うと言えば『イングロリアス・バスターズ』。
『ジャンゴ 繋がれざる者』もラストでスカッとさせてくれます。
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