『記憶にございません!』の好き度
三谷幸喜作品はあんまり好きなのはないんですが、本作はけっこう好きです。
観終わった直後は「うーん、やっぱりあんまり好きにはなれん…」と思っていたのですが、時間が経つにつれてだんだん「けっこう面白かった気がする…」「いや普通に面白かったよな」「てかけっこう好き!」とどんどん印象が変化していきました。そういう映画ってありますよね。
『記憶にございません!』のスタッフ・キャスト
スタッフ
- 監督:三谷幸喜
- 脚本:三谷幸喜
- 製作:石原隆、市川南
キャスト
- 黒田啓介:中井貴一
- 井坂:ディーン・フジオカ
- 黒田聡子:石田ゆり子
- 鶴丸大悟:草刈正雄
- 古郡祐:佐藤浩市
- 番場のぞみ:小池栄子
- 寿賀さん:斉藤由貴
- スーザン・セントジェームス・ナリカワ:木村佳乃
- 山西あかね:吉田羊 など
『記憶にございません!』のあらすじ
国会で「金銭の授受は合ったんですか?」と問われると「記憶にねーんだっ!記憶にございませんっ」と逆ギレする総理大臣、黒田。
支持率は2.3%で地上スレスレの超低空飛行。不人気No.1の黒田は、ある日、演説中に観衆の怒りを買い石をぶつけられてしまいます。
その後、毒薬を飲まされ目が覚めたら…体が縮んでしまっていた!!ではなく、記憶喪失になっていました。
何も知らない、何もわからない状態のため、当然ながら不安でいっぱいの黒田は、弱気、低姿勢、謙虚、と今までとは全く真逆の人間になってしまったからさあ大変。
ブレーン陣はこれを極秘にすることにしたため、国民をはじめ各省庁の大臣、家族すらも総理が記憶喪失の事実を知りません。当然、急に人柄が変わった総理にみな困惑(困惑シーンが連発するがどれも面白い)しますが、なんとかごまかし続けます。
黒田自身も当然困惑し、総理という仕事の重責から逃げ回っていましたが、ある日ついに真摯に政治に向き合うことを決意。今までやる気のなかったブレーン陣と一丸なって政治改革を実施していきます。
なかなか支持率は上がらないものの総理としての仕事を誠実にこなしている、そんなある日。秘書の番場(小池栄子)が黒田の幼少時の日記を見つけ、ある事に気づきます。
番場が詰め寄ると、総理はあっさり告白。そう、実はずいぶん前に記憶は戻っていたのでした。
記憶喪失になったことで生まれ変われた黒田は、記憶が戻ってからも記憶喪失のフリをしていたわけです。
「こんなチャンス、見過ごせないでしょ?」黒田がそう言って、映画は終わります。
『記憶にございません!』の感想
小ネタギャグの連打。断続的にジャブをうち続けてくる感じ
映画の要所要所にギャグが入っていて、一つ一つの破壊力はさほど強くはない”ジャブ”みたいなもんですが、積もり積もるとけっこう効いてきて、ちょっと強めのジャブがきた所で…どっかん!と笑ってしまいましたよ(´ー`)
ギャグの一発一発は繋がりがあるわけでもないし、そんなにツボに入ってる感じじゃなかったんですけどね、あなどれん…。
『はじめの一歩』46巻の「板垣家の人々」って話を思い出しました。
あえて浅く記号的に作られた政治ネタ
あるあるネタとして楽しめる
政治ネタは年金問題、安全保障、少子高齢化、憲法改正などリアルなものは出てこないで、ワイドショーで取り上げられるような、失言やスキャンダル系のライトなものだけになってます。
社会問題や政治問題を皮肉ったり風刺する感じはほぼ無いですが、誰もがテレビで1度は見た様な「あるあるネタ(または、ありそうなネタ)」が満載にはなってます。
本作は政治家や政治問題がテーマではない
とはいえ、見た当初は「政治問題の風刺とか無いの?!」とやや不満気味に思いました。
でも、よく考えたらこの映画は「日本の政治や政治家を描いた映画」ではなく、金と権力に目がくらんだ権力者が変わっていく「寓話」なのかな…と。
だから、寓話性が崩れるようなリアルタイムの政治問題はなくて正解なんだな、と思い直しました。
つまり、三谷監督は「政治や政治家」というより「人は変わる、変われる」という事を描きたかったんだと思います。
今回はそうした「人の変化」をコミカルに描いてます。とくに記憶喪失で性格が真逆になった主人公に困惑する周りの人間のリアクションは見もののひとつです(個人的には、奥さん役の石田ゆり子が面白かった)。
記憶喪失=やり直す、生き直すという意味ではチート級の技
ちょっと話が変わるんですが、誰かに大きな嘘をつかれ、その人から「もう一度信じてくれ」と言われたとします。
そんな時に再びその人を信じるには過去の実績が影響しませんか?
嘘をついた人が過去に何度も嘘をついていたら「どうせまたやるだろ?」と思っちゃう気がするんです。
でも、仮にその嘘つき人間が記憶喪失になったら、それはもうリセットボタンを押されたみたいなものですから、「もう一度信じてくれ」って言ったら信じちゃう気がするんですよね。
なんていうか、「ごめん、僕は生まれ変わったから。これからはもう裏切らないよ」みたいな信用ならない言葉を言うヤツの“本当版”って言うか…。
何が言いたいかというと、記憶喪失って、その人の過去の”ダメな実績”を参照させない様にして「この人は前とは違うから…もう一度信じてみよう」と思わせる最強の手法になりうると思ったんです。
例えば今回も、総理が記憶喪失にならないで単純に「おれ改心したから!政治改革しよう!」といって動き出すだけじゃ、周りもいきなり総理のことを再評価しなかったと思うんですよ。
本作の「人は変わる、変われる」ってテーマは確かに希望を貰えるんですが、記憶喪失という周りからの評価をリセットできるチート技を使っているので、「他人から1度ネガティブな評価をされたら、記憶喪失級の技を使わないと、それを覆すのはなかなか難しいのかな…(´・ω・`)ションボリ」と逆に、より改心してやり直す!という事のハードルの高さを感じたり…。
支持率は上がらない、という所がよかった
寓話的とは言え、ラストで支持率が上がらないところはよかったと思いました。記憶喪失後の黒田総理は型破りな政治パフォーマンスをしまくるわけですが、支持率は上がりません。そうした「劇場型の政治に国民は簡単には騙されない」という展開は、映画を観てる観客が「だよね、これまでがこれまでなんだから、結果も出てないうちに簡単に支持しちゃダメだよね」と、現実の政治に対する見かたにおいても、襟を正す事になった気がします。
あれで「支持率もぐんぐん上がりました!」なんて展開になってたら、それこそ映画を観ている側から「国民なめんな!」と総スカンをくらってたかもしれません。
終わら方
ゴールらしいゴールがない話なので、「どこで映画を終わらせるのかな…」と考えてたら、思いがけない所で終わりました。
特に政治家として何かを成し遂げたわけでもないし、支持率は相変わらず低いまま、何も達成していない状態での終幕。
でも、だからこそいいラストだったとも思います。
「人は変われるけど、そんな簡単には周りの見る目は変わらない」という事の示唆でもあるし、「それでも確実に良い変化が起きてる」ってのがわかるラストでした。
役者陣
役者陣もすごい良かったです。
さらっと思いつく限りでも、中井貴一の「記憶喪失前のキレキャラと、記憶喪失後のナヨキャラの落差はさすが!」とか、小池栄子に「本当に”デキる女性なんだけど、どこかチャーミング”な役をやらせたら日本一!」とか、ディーン・フジオカが出てくると「画面が締まって、急に映画のグレードが上がる気がする!」とか、佐藤浩市の記者役は「正義の心は枯れてしまったけど、実はどこかでまだ熱いものを持ってる感じが渋い!」などなど。
他にも石田ゆり子、斉藤由貴、草刈正雄、梶原善、吉田羊とか、挙げればキリがないですが、みんな良かったですね。
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