『蜜蜂と遠雷』の好き度
好きな雰囲気ってあるじゃないですか。自分の場合、”雨の日の雰囲気”と”劇場の雰囲気(コンサート会場とか映画館)”なんですけど、この映画はその両方がありました。
なので、すごい好きな作品になりましたよ。原作の恩田陸の同名小説も読んでみよ(´ε` )
スタッフ・キャスト
スタッフ
- 監督:石川慶
- 原作:恩田陸
- 脚本:石川慶
キャスト
- 栄伝亜夜:松岡茉優
- 高島明石:松坂桃李
- マサル・カルロス・レヴィ・アナトール:森崎ウィン
- 風間塵:鈴鹿央士
- 高島満智子:臼田あさ美
- 仁科雅美:ブルゾンちえみ
- ジェニファ・チャン:福島リラ
あらすじ
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
一流ピアニストの登竜門、「芳ヶ江国際ピアノコンクール」に出場する4人のピアニスト。
“元神童”の栄伝 亜夜(松岡茉優)、会社員&父親の”生活者ピアニスト”高島 明石(松坂桃李)、栄伝の幼馴染で”正確無比”なマサル・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)、”型破りな天才” 風間 塵(鈴鹿央士)。
主人公の栄伝(えいでん)は過去のオーケストラ演奏でのトラウマと、母親の死によりピアノから遠ざかっていましたが、踏ん切りをつけるためラストチャンス的にコンクールに戻ってきました。
4人のピアニストはみな凄腕なんですが、1次予選で「生活者の音楽を知らしめる!」と燃えてた高島明石は落選。
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
マサルは安定感、風間は独創的、栄伝は無難な演奏で最終審査に残るものの、最終の審査形式はオーケストラでの演奏と明かされます。
オーケストラでの演奏にトラウマを抱えていた栄伝はリハーサルの段階で「やっぱ無理…帰ろ…(´・ω・`)ショボン」と退散しかけますが、マサルのピアノ奏者としての夢や、高島のピアノへの諦めきれない想い、そして風間の生き生きとした演奏を聞き、逃げるのをやめ最終審査の舞台に立つことを決意。
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
トラウマを乗り越え、抜群の集中力で見事な演奏を見せるのでした。
ラストは、1位 マサル、2位 栄伝、3位 風間と結果発表が通知書類のような文字だけで映し出されると、風間らしき人物が帽子を取り会場からでていくところで映画は終わります。
『蜜蜂と遠雷』の感想
画面がスタイリッシュ。雨がよく似合う
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
『蜜蜂と遠雷』の監督はポーランド国立映画大学で学んだ石川慶。過去作では『愚行録』があります。
脱線しますが『愚行録』は予告で気になって、品川の映画館まで会社をズル休みして観に行った思い出深い作品(´ー`)。作品の暗さとズル休みの罪悪感があいまってかなりダウナーな気分で帰ったのを覚えています。
ポーランド仕込みだからかはわかりませんが本作は画面がとてもスタイリッシュでした。全体的に画面がキリッとしてて、“涼しげ”というか”寒々しい”というか。
ただ、そこに確かな“美しさ”もあります。要所要所差し込まれる地面をうつ雨や隆々と駆ける馬のスーパースロー映像はダークな雰囲気を醸し出しつつ、幻想的で美しく仕上がってました。
説明シーンがほぼなく、集中して見いってしまう
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
本作を見終わった気づいたんですけど、はじめから終わりまでめちゃくちゃ集中して見てたんですよね。
ちょっと理由を考えると、やっぱり映像が綺麗なことに加え、本作は説明セリフや説明シーンが全然ないのがその要因なのかなと。
例えば主役の栄伝は元天才少女だった事こそ、序盤でさらりとセリフで説明されますが、過去に何があったかは明示的に示されません。かわりに、厳しい視線を向ける指揮者や楽器奏者の映像が栄伝の頭にフラッシュバックする映像だけが映しだされます。
しかし、これだけで十分に「栄伝は過去にオーケストラ演奏時にトラブったのか…」とわかるようになってるんですよね。
もちろんこれは一例にすぎないわけですけど、ようは本作は余計な言葉や描写がなく洗練されてるので、想像力を働かせて画面に映る1シーン1シーンを見逃さよう集中しちゃうんだと思います。
あ、あと物語が“とある音楽コンクールでの出来事”に限定されていたのも、集中してみいってしまった要因のひとつかもしれません。
音楽が主役
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
さっき「説明セリフが少ない」と書きましたが、この映画そもそもセリフ自体が少ないんですよね。
あくまで主役はピアノ音楽というか。
とはいえ、セリフがなくて物足りない…なんてことは全然なくて。自分はクラシックに全く明るくないですが、それでも演奏シーンにはブチ上がったし、「クラシックアルバム借りてみよ〜」と思っちゃいましたよ。
演奏シーンは余計な音なしでちゃんと1曲聴かせてくれるので、しーんとした劇場でピアノの音だけが響き渡るという臨場感が味わえます。これはなかなか他の映画では体験できないのでかなり興奮しました。
あっち側の人、こっち側の人
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
コンクールの途中、ピアニストの4人が息抜きに海辺で散歩するシーンがあるんですが、そこで天才と呼ばれる風間が砂浜に残る足跡を音符?に見たてて、何の曲か当てるゲームを始めます。
それを平然と当てていく栄伝やマサルを見たサラリーマン兼ピアニストの高島が「自分はあっち側ではない」と才能の差を悟るんですが、このシーンはその残酷さ、せつなさがわかる名シーンだと思っていまして(それでも、高島は「生活者の音楽」という自分なりの音楽で天才たちに戦いを挑むので、もう彼の物語だけでも熱くなるものがあります)。
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
ピアニストのように小さな頃からの”たゆまぬ鍛錬”が大事な分野では、“大人になってからじゃ埋めることのできない差”を感じる機会はとりわけ多いと思いますが、別に私たちだって「ああ、自分はあっち側にはいけないんだな…」と悟る瞬間は人生でちょいちょいあるじゃないですか。
今からでも努力すればどうにかなる事もたくさんあるけど、今からじゃ絶対的に間に合わないものもたくさんあるわけで。だからこそ、高島のあのシーンにはぐっときたし、きっと多くの人が彼には共感できると思います。
キャラ造形がはっきりしてる。それに対応する俳優陣もよかった…
本作は主要キャラが4人いて、元天才=栄伝、真面目な秀才=マサル、異端児で天才=風間、庶民派の努力家=高島、とある意味よくあるキャラ設定ではあるんですよね。
しかし、誰もが記号的なキャラになっていません。それぞれにちゃんと実在感があります。
特に気になったのは風間役の鈴鹿央士で、彼は新人(広瀬すずにフックアップされたから”鈴”がついてる!)っていうこともあり、作中の”ピアノ界の新星、そして天才”という立ち位置がすげえマッチしてました。外見も小顔、長身、超童顔でなんか現実離れしてて、神の子感がすごい強かったです。
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
森崎ウィンが演じたマサルも、変態的に生真面目な感じがでてて、正確無比な演奏をするキャラとすごい合ってたし。
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
他にも元天才の栄伝亜夜を演じた松岡茉優は実際のピアニストの方の見た目や雰囲気を意識したそうだし、高島明石を演じた松坂桃李の場合は、ピアノの指導係の先生が高島明石タイプのピアニスト像を教えてくれてそれを参考にしたそうな(かばんには水とハンカチと音符しかないと思われる、とか。もうプロファイリング!)。
(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会
演奏シーンは本格的な部分はプロの奏者がいるそうですが、一部は役者本人がトレーニングをして実演したとのことで、演奏時の佇まい(座った姿勢、体の揺れ方など)が本当にリアルでした。
まとめ
本作は、上質な面白い映画と緊張感あるピアノコンテストを両方観たような、お得度の高い満足感のある作品でした。また観たいと思います。超おすすめ。
関連作品
石川監督作品の『愚行録』。これは見終わってちょっとだけ引きずったなあ…。超面白かったけど(アマゾンのレンタルだと400円くらいで見れます)。
コメント