『タクシードライバー』の好き度
マーティン・スコセッシ監督&ロバート・デ・ニーロのコンビ作『タクシードライバー』。他にもこの二人のコンビ作はいっぱいありますね。
とりあえず、ホアキン・フェニックス主演の『JOKER』にも影響を与えた作品ということでNetflixにもあったし鑑賞してみたわけですが、予想以上にくらってしまって、まいったまいった…。
『タクシードライバー』のスタッフ・キャスト
スタッフ
- 監督:マーティン・スコセッシ
- 脚本:ポール・シュレイダー
- 台詞:ケイ・チャピン
キャスト
- Travis_Bickle:ロバート・デ・ニーロ
- Betsy:シビル・シェパード
- Wizard:ピーター・ボイル
- Iris:ジョディ・フォスター
※劇場公開日 1976年9月18日
『タクシードライバー』のあらすじ
ColumbiaPictures/Photofest/MediaVastJapan
主人公のトラビスはベトナム戦争からの帰還兵で、NYにやってきてタクシー運転手になります。ハーレムやスラムといった、普通の運転手は敬遠しがちな場所も走る彼は、街の乱れた一面に辟易していました。
そんなある日、トラビスは大統領候補議員の選挙事務所に勤める女性ベッツィーに一目惚れしてナンパします。いっときはいいムードになったもののデートでポルノ映画に連れて行ったことで嫌われてしまい音信不通に。
ColumbiaPictures/Photofest/MediaVastJapan
急に連絡が途絶えたことで怒りをあらわにしたトラビスは彼女の職場まで怒鳴り込みにいってしまい、完全に関係が終わりました。
好きになった女性にこっぴどく嫌われ、近くに家族や仲のいい友人もいないトラビスは完全に孤独になり、タクシーを流して街でイチャつく奴やラリってる奴を見ては「みんな消すべきだ」と極端な思考になっていきます。
そして実際に銃を購入し、体を鍛え鏡に向かって独り言を言っては、銃を構える日々を送り、トラビスは徐々に狂っていきます。
ColumbiaPictures/Photofest/MediaVastJapan
そんなある日、トラビスは売春をさせられている少女アイリスと出会います。
すっかり過激派となっていたトラビスは、街の乱れに嫌気がさしていた事もあり、たいして面識もない彼女を救うことを決意します。
翌日、髪をモヒカンにカットしサングラスをかけたトラビスは、ギャングと直接関係はないベッツィーの勤める事務所の大統領候補の議員演説に出向き、議員を撃とうします。ところが、この行為は(ベッツィーに自分を意識してもらうためか、または何でもいいから大きな事をしたかったのか理由は定かではないですが)早々にSPに見つかり失敗に終わります。
写真:Moviestore Collection/AFLO
SPから逃げ切ったトラビスは、今度はギャングのアジトの売春宿に向かい、ギャング連中を次々に撃ち殺していきます。自分も致命傷をくらったもののまだ命があったトラビスは、自身の銃で自害しようとしますがあいにく球切れ。しばらくして警察が到着すると、瀕死の彼は人指し指を銃に見立て、自身の頭を撃つジェスチャーをして力尽きます。
ColumbiaPictures/Photofest/MediaVastJapan
(ここからは事実か妄想かが曖昧な作りになりますが)一命を取り留め、売春少女も無事親元に引き取られたこともあって、トラビスはマスコミから英雄扱いされます。
しばらくして仕事に戻るトラビス。すると彼のタクシーにベッツィーが乗り込んできます。彼の行為を称賛するベッツィー。彼女は気がある素振りを見せますが、トラビスはベッツィーを送り届けるとと無言で走り去り、映画は終わります。
『タクシードライバー』の感想
トラビスがああなった理由を考えてみる
トラビスを見てて、「これ…一歩間違えたら自分じゃん…(´Д`; )」って思えるくらい、彼の心の状態は自分にも心当たりがありました。
ていうわけで自分なりにトラビスの心情を分析すると、トラビスが最後に武装してギャングを殺しに行くに至ったには、2つの要因があったと思うんですよね。
その1:孤独による客観性の欠如
トラビスはベトナム戦争からの帰還兵。戦場から帰ってからNYに上京し、タクシードライバーの職に就きましたが、戦争の影響で不眠症に悩み、知り合いや友人もいないため孤独でした。
私自身も1人の時間が好きですけど、1人の時間が多すぎると精神的なバランスをくずしがちになりませんか。
自分に置き換えて考えると、会社員を辞めてしばらくプラプラしてた時期がまさにそれで、最初は自分だけの自由な時間をエンジョイしてるんですけど、あまりに1人でいると自問自答が多くなり、小さな出来事でも固執して考えるようになっていました。
そして、互いの考えを話しあい別の価値観を提示してくれたり、時には反論してくれる相手もいなかったから(=孤独だったから)、どんどん客観性が失われ視野の狭い極端な考えになっていくんですよね。
本作『タクシードライバー』の主人公トラビスを見てたら、そんな当時の自分を思い出しましたよ_| ̄|○
彼もどんどん“孤独によって考え方が極端になっていく”んですよね。
その2:極端化した思考からの”自己中ギレ”
とはいえトラビスは、ベッツィーという女性に一目惚れして積極的にナンパ!からのデート!にまでこぎつけ、社会と繋がろうとしてる感じがありました。ところが彼女をポルノ映画に誘って嫌われてからは完全にふてくされモードに突入しています。
自分を無視し続ける彼女に対してイラつき、さらには街を歩いてるカップル達にもイラつくばかりか、どんどん飛躍していき、売春してる少女を見かけてからは、すさんだ社会にたいしてキレるようになるんですね。
非常に危ういヤツですが、でもこれ、すごいわかるんですよ。キレる対象がどんどん大きく大げさになっていく感じ。
彼女がいなかったり、稼ぎが少なかったり、なんでもいいんですけど「自分だけ劣ってて、満たされてない」と感じる状況に陥ると、どんどん何かのせいにしてムカついてきてしまう感じ。冷静に考えると全然スジが通ってないのに、その時は自分を正当化してしまう、まさに“自己中ギレ”とでも言べうき状態。
この”自己中ギレ”に、先述した”孤独によって考え方が極端になる”、があわさるととても危険な状態だと思うんですよね。
で、その危険な状態こそが本作のクライマックス直前、大統領候補議員やギャングを撃ち殺しにいく少し前のトラビスだったと思うんです。
彼はベッツィーに嫌われてから”自己中ギレ”状態になり、世間や社会にたいしてイラついていきます。そして孤独ゆえ考え方に客観性も失われていたので、どんどん独善的な思想に拍車がかかる。
そうしたフラストレーションがマックスに高まったところが、ギャングを撃ちまくるという、まさに映画でのクライマックスにもなっていました。
社会性はめんどいけどやっぱ大事…と実感
トラビスは後半では狂ってきてますが、過去の自分と重なる…と感じた自分としては「ったく、トラビス狂ってんな。やりすぎだって┐(´д`)┌ヤレヤレ」と他人事のようには捉えられませんでした。
むしろ、「一歩間違えば自分がこうなる可能性はある…。ていうか、誰でもなりえる…」と感じたくらい。
それくらい、トラビスが陥った状況って誰でもなりえるし、なんなら、実際にいきすぎた正義感や極端な思考から異常な自警行為っぽいことをして事件になる例もあるわけですし。
そんなこんなで、トラビスを見ててすっかり怖くなった自分としては「やっぱり(めんどくさいけど)社会との繋がりって大事なんだな…」と至極当たり前の事を改めて感じましたよ。
たしかに、わりとすぐに人間関係がめんどうになっていっぱいいっぱいになるタイプの自分としては「人や集団と積極的に関わるのはちょっと…」って思ってしまいがちではあります(;´∀`)
でも、社会と繋がることによってこそ得られる事もあるわけで。わかりやすい例だと、何かをうまくやれた時に1人ぼっちだったら自分で自分を褒めるしかないけど、社会的集団の中だったら他人に評価されたりもするわけで。そうすると1人の時より自己肯定感や自尊感情みたいなものは持ちやすいのはたしか。
トラビスはタクシードライバーという職について、表面上は社会とつながってたけど、心は完全に孤独を決め込んでいましたからね。なにか別の良い人との繋がりがあれば…もう少し客観性を持った状態を保てて、他者や社会に対してあそこまで極端な思考にならずに、もう少し理解を示せたかもしれないのになぁ…と思いました(一応、タクシー運転手の仲間たちがいましたが、そこまで深い繋がりって感じじゃなかったですもんね、たぶん)。
誤解のないように言うと、仲間とツルめばいいと言ってるわけでなく、1人の世界に入り込み自身の価値観を絶対視しないよう、別の価値観を提示してくれる”人”や”コミュニティ”があった方がいい、と思った次第です。
そうすれば自分の価値観を相対的に見ることができて、客観性を保てると思うので。
だからって、「自分にとってそんないい人やコミュニティが簡単に見つからないから苦労してんだよ!ヽ(`Д´)ノ」というのも事実。でも、じゃあせめて「トラビスという反面教師の存在」だけは覚えておこうと思います…。
トラビスは自分の中にも…誰かの中にも…そこらへんにも…どこにでもいる(;´∀`)!
関連作品
同じくスコセッシ&デニーロ作品の『キング・オブ・コメディ』。
優しいデニーロを見たくなったら、『マイ・インターン』なんかがいいんじゃないかしら(;´∀`)。
コメント