映画『宮本から君へ』〜暴力をどう捉えればいいか〜

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映画『宮本から君へ』の好き度

当初、原作漫画は読んでおらずテレ東のドラマから入りました。
その後、漫画をドラマ版で描いていたところまで購入して読みました。

今回の映画『宮本から君へ』は、話し的にはドラマ版の続きなので、私が原作漫画でまだ読んでないエピソードでした。

つまり映画版の内容はまったく知らない状態で鑑賞したわけですが、こんなにもハードな内容だったとは。正直かなり面食らいました。

映画『宮本から君へ』のスタッフ・キャスト

スタッフ

  • 監督:真利子哲也
  • 原作:新井英樹
  • 脚本:真利子哲也 港岳彦
  • エグゼクティブプロデューサー:河村光庸 岡本東郎
  • プロデューサー:佐藤順子
  • ラインプロデューサー:角田道明
  • 撮影:四宮秀俊
  • 照明:金子康博
  • 録音:西條博介
  • 装飾:山田智也
  • スタイリスト:伊賀大介
  • ヘアメイク:小林雄美
  • 音楽:池永正二
  • 音楽プロデューサー:齋見泰正
  • 主題歌:宮本浩次

キャスト

  • 宮本浩:池松壮亮
  • 中野靖子:蒼井優
  • 風間裕二:井浦新
  • 真淵拓馬:一ノ瀬ワタル
  • 田島薫:柄本時生
  • 小田三紀彦:星田英利
  • 岡崎正蔵:古舘寛治
  • 真淵敬三:ピエール瀧
  • 大野平八郎:佐藤二朗
  • 神保和夫:松山ケンイチ

映画『宮本から君へ』のあらすじ

ドラマ版

文具メーカーの営業マン宮本浩(池松壮亮)は正義感が強く、不器用な男。営業スマイルを作ることにも疑問を持ち、仕事にも熱が入りきらない男でしたが、女性関係や仕事での失敗、先輩や同僚からの叱咤激励でどんどん成長していきます。ドラマ版の最後では未練を残していた元カノへの思いも吹っ切り、仕事も結果には繋がらなかったものの全力を出し切り、”少し大きくなった宮本”を見られます。

映画版

今回はそんなドラマ版の続編という立ち位置の映画版ではありますが、はっきり言って話しのテーマやテイストはドラマ版とは全く異なり全然別の作品と言ってもいい内容になっています(いや、宮本という男の成長を描く、という点では共通してはいますが)。

映画版では、宮本(池松壮亮)が会社の先輩の友達の女性、靖子(蒼井優)となんとなく仲良くなるところから話が始まります。靖子が元カレの風間に未練を残している事を知った宮本は「おれにしとけ」といわんばかりに、そして靖子も風間への思いを断ち切るように2人は抱き合い結ばれます。

※本ページの画像:(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

宮本は靖子と幸せになることを確信し順調な日々を送っていたのですが、ある日、靖子とのデートになかば強引に取引先の客である真淵(ピエール瀧)らが合流します。

体育会系のノリで宮本と靖子に接する真淵たち、それに応戦するように宮本も酒を飲みまくります。真淵は自分の息子である元ラグビー学生代表の拓馬(一ノ瀬ワタル)を呼び、ベロベロになった宮本と靖子を送らせます。

宮本と靖子、拓馬は靖子の部屋で飲み直しますが、さんざん飲んだ宮本は早くも轟沈、爆睡してしまいます。
するとこれまで気のいい青年だった拓馬の態度が豹変し、洗面所からでた靖子を犯します。宮本はその横ですやすやと寝ていました。拓馬はことを終えるとマイペースに流しで手を洗いゆうゆうと家をでていきました。

翌日、眠りから覚めた宮本は明るく靖子に話しかけます。「よく眠れた?」と聞く靖子の調子がおかしいことに気づき、宮本はそこではじめて事の顛末を知るのでした。

靖子は何も知らず眠りこけていた宮本を見損い、拓馬に復讐しようとする宮本に「私のためじゃなく、自分のためだろ。自身の落ち度を棚上げした行動だ」的な叱責をします。

そして、宮本と靖子の関係は一旦終わってしまいました。

とはいえ当然おさまりのつかない宮本は拓馬に復讐をしかけます。しかし小柄な宮本は余裕で返り討ちにあいボコボコに…。

意気消沈していた宮本でしたが、しばらくして靖子の元カレ風間から靖子が妊娠していることを聞かされます。

父親は宮本か元カレの風間かあいまいな状況でしたが、宮本は迷わず靖子にプロポーズをしました。あっさりフラれる宮本でしたが、そこで改めて拓馬に借りを返しに行くことを決意します。

拓馬のもとに出向いた宮本は、ふたたびボロボロにされつつもなんとか急所をにぎり潰すという荒技でガタイが10階級くらい上の拓馬を倒します。
宮本はぐったりした拓馬を自転車の後ろに強引に乗せ、その足で靖子の元へいき、改めてプロポーズをします。靖子は呆れて笑いながらその結婚を承諾して、映画は終わりに向かっていった気がします(熱くなりすぎてあまり覚えていない)。

映画『宮本から君へ』の感想

池松壮亮が宮本にしか見えない

まず言いたいのは、宮本を演じた池松壮亮(-д☆)キラリ!最近は同じくテレ東深夜ドラマの名作『渋井直人の休日』に出てた、気取ったサブカル野郎のカフェオーナーを演じる彼を見てたので、久々に宮本を演じる池松壮亮を見たら、もう全然別人でしたね。
もう宮本でした彼は。
やや小柄な体格、ときおり見せる異常な熱さ、誰にでも怒り誰にでもビビり誰にでも向かっていく彼を見事に演じきっていたと思います。
『宮本から君へ』は池松壮亮をキャスティングしたところである種もう勝ってる、と思いました(偉そうに)。

そして宮本の相手役、靖子こと蒼井優もすごすぎた…。もうヤバすぎでしたよこの2人は。私のような素人目に見ても、フルスロットルなのがわかるすごい演技。インタビューで「とても疲れる現場だった」的なことを言っていたのも納得すぎる。

他にも、真淵役のピエール瀧、真淵の同僚の大野役の佐藤二朗、靖子の元カレを風間役の井浦新とか、拓馬役の一ノ瀬ワタル、ドラマから続投した文具メーカーの同僚たち含め、役者陣は本当最高でした。

暴力による支配、暴力による解決。これをどう捉えればいいか

映画の内容についてですが、本作の一貫したテーマは「暴力」といえると思います。
これが生々しいほどリアルに描かれてました。
拓馬が靖子に振るう暴力、拓馬が宮本に振るう暴力、靖子が宮本に振るう暴力、真渕が拓馬に振るう暴力、宮本が拓馬に振るう暴力。様々な暴力が描かれてます。

特に圧倒的な腕力や体格、経験のもと殴り蹴る拓馬が振るう暴力には、観ている我々にも絶望を植え付ける絶対的な「どうにもならなさ」がありました。もう観てて心底最悪な気分になったし、拓馬が憎くてしょうがなかった。
だからこそ、そんな拓馬に臆しながら、屈しながら、何度も立ち向かっていった宮本の姿には、暴力に暴力で返すという手段であっても、感動があったのだと思います。

しかし!
悪に対して、そして正々堂々とはいえ宮本の復讐もまた暴力で実行されたわけで、そこに感動や熱いモノを抱いてしまっている自分にバツの悪さを覚えたのも確かです。

いや、もちろん私も復讐する宮本に「どこまでもやっちまえ」と思ったし、実際宮本が拓馬をボロボロにしたときは心から喜んでました。あの件はあの件で良かった、と思ったのも事実です。しかしそれは、暴力行為そのものを否定しないことにもなってしまうで、どうしても複雑な気持ちにならざるをえない…。

もともと「復讐モノ映画」は大好きですが、本作はそれともちょっと違う気がします。復讐モノ映画は意外と復讐自体を「間違っているかもしれない、でもそうすることしかできない」と描くことが多いですが(それが観ている側の”免罪符”にもなる。「こちらも復讐は悪いことだとは思ってるよ」と心の中で言い訳できるから)、しかし本作は復讐によるカタルシスがすごすぎ、かつ、明るさを伴って描かれているので、暴力や復讐を自分の中で肯定できすぎちゃうきらいがあります。

拓馬の暴力性を心底憎み嫌気が差したにもかかわらず、暴力によって完遂された宮本の復讐にすごくスカッとしている自分もいる…こうした矛盾を観ている側にいただかせるような作りになってました。

もうよくわからなくなってしまったので、とりあえず現状は自分に両方の感情の同居を許可することにしましたよ…。暴力に嫌気がさした一方で、暴力にスッキリとした自分を忘れず覚えておくくらいしかできそうにないです。

体育会系コミュニケーションの”嫌な感じ”の再現度がすごく高い

ピエール瀧演じる拓馬の父・真淵が、“現在の実社会にも普通にいそうな最悪なおじさん”で最高でした。
彼はラグビー上がりの体育会系で、宮本と靖子の仕事終わりのデートの待ち合わせに勝手に乱入し、それでいて靖子が遅れてきたら「ふざけんな、お前のせいで時間を無駄にした」などとぬかすけっこうなクソ野郎です。
自分なりのルールを押し付け、それを取引先(宮本から見たら真淵が客)という関係性を使って強要するところは本当にヘドがでるほど嫌悪感を感じました(それでいて結局、息子の拓馬が靖子を犯したことがわかっても自分の身内には厳しく接しきれない。そんなところもまた最悪で。まあそれが親心で、しょうがない部分もあるのかもしれないけどさ…)。

そして、飲み会では当然「おれの酒が飲めねーのか」的なノリ。まあ宮本もそのノリで返しちゃったりするんですけどね(一升瓶をイッキする)。

こんな、理屈で考えるとおかしい時代遅れの「体育会系コミュニケーション」って今なお世の中にしぶとく残ってると思いますが、これが本当に高いクオリティーで再現されてました。そして、その後に「拓馬の登場」ですから、見てて本当辛いですよ前半は。「世界って、ほんと最悪じゃねーか」って思ってしまいました。

まあ、ここまで嫌悪させてくれた、っていう意味でいうと真淵を演じたピエール瀧はホント最高の演技ってことになりますね(笑)万雷の拍手を贈りたいです。
それと出番は少ないけど、真淵の同僚で親友の大野を演じた佐藤二朗も最高でした。要領よくて上から言ってくる、でもちょっと核心突いてたりするというキャラで、本当にムカついた…(笑)

倫理的・コンプラ的にどうなんだ…という内容だから好き嫌いは絶対わかれる

本作は、現代の「世間の価値観」や「世間の目」に真っ向から喧嘩を売っている、あるいはハナから相手にしていない作りになっています。
「昔の漫画原作だから」「テレ東の深夜ドラマ発だから」というのもあるからか、現時点ではそこまで賛否の嵐みたいになってなさそうだけど、ゴールデン帯の連続ドラマで本作がやってたら相当賛否を呼ぶ内容だと思います。

話のテーマ自体がそもそもそうですが、細かいところで言うと、レイプ犯を半殺しにしたからといって、被害者にふたたび犯人を会わせるのはどうなんだろう…とか(本作を観た知人の女性に意見を聞いたら「あれはない」とのことだった)。他にも宮本の行動は受け入れがたい部分がけっこうあると思ったし(勢いで相手の会社きちゃったり…。あれ『ブルーバレンタイン』でライアン・ゴズリングやって心底嫌がられてたなあ…)。
宮本の無鉄砲というかあまりに先を考えず直上的に動く性分はたしかに漫画の主人公っぽいけど、よく考えるとヤバイやつと紙一重な人間性ですからね。

まあ、そんな風に冷静になるとかなり議論を呼ぶシーンが多い映画なのは確かではありますが、ぶっちゃけ異常なほどの熱量で観ている側を冷静にさせないで最後まで持っていける映画なのも確かです。

まとめ

なんだかんだ言ってきましたが、個人的には今年ベスト級に面白く、くらった映画のひとつです。

ただ、見終わったら1,000キロカロリーくらい消費しました(メンタル的に)。

関連作品

『宮本から君へ』の原作の完全版セットです。これの2巻まで読んだ状態で映画を見ました。2巻までがドラマ版、それ以降が映画版で描かれている感じかと思います。

ドラマ版のブルーレイ。動画配信でも1作ずつレンタルできたり、Netflixにもあります。配信系の方が安くすみます。

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