『殺さない彼と死なない彼女』の好き度
キラキラムービーと思ったらちょっと毛色が違う映画でした。桜井日奈子演じる主人公が亡くなった人の服の匂いを嗅いでその人の存在を感じるシーンでは、不意に父親が亡くなったときのことを思い出して(同じことをした)泣いてしまいましたよ…(;´Д`)
それ抜きでも本当いい映画でした。
『殺さない彼と死なない彼女』のスタッフ・キャスト
スタッフ
- 監督:小林啓一
- 原作:世紀末
- 脚本:小林啓一
キャスト
- 小坂れい:間宮祥太朗
- 鹿野なな:桜井日奈子
- 地味子:恒松祐里
- きゃぴ子:堀田真由
- 撫子:箭内夢菜
- 八千代:ゆうたろう
- イケメンくん:金子大地
- サイコキラーくん:中尾暢樹
- さっちゃん:佐藤玲
- きゃぴ子の母:佐津川愛美
- 小坂の母:森口瑤子
『殺さない彼と死なない彼女』の感想
キラキラ映画じゃなかった
本ページの画像:(C)2019 映画「殺さない彼と死なない彼女」製作委員会
序盤(はじめの15分くらいですかね)はけっこうな「キラキラムービー」でした…。ぶっちゃけ見ててキツかったッス。いや、正直言うと恥ずかしすぎてスクリーンを直視できず買ったポップコーンの容器をじっと見ていました(;´∀`)エヘ
ところが、キャピ子のモノローグあたりからですかね、なんだかキラキラ要素の成分が徐々に薄まっていきました。
本作は、高校生、オレ様系男子、文系キャラ、ビッチキャラ、真面目キャラ、などキラキラムービーの定番といえる要素がふんだんなのですが、扱っているテーマは「色恋」ではなく「人の気持ちがいかに他者に伝わりづらいものか、そして相手に伝わった時(片思いが両思いになった時や、自分の気持ちを相手が理解してくれた時)がいかに喜ばしいことか」でした。ちょっと寓話的とも言える内容だったと思います。
3組のカップルそれぞれが通じあうまでを描く
この映画は3組のカップル(男女とは限らず)がでてきて、各カップルの話しが入れ代わり立ち代わり描かれるスタイルです。
3組は同じ高校っぽいんですが、実はあまり関連性がない…と思っていたら実はうす〜く繋がったお話、という作りで最後はその繋がり方にもうるっときてしまう、そんな巧みな構成になってました(ノД`)ウルッ
各パートそれぞれの感想を書いていこうと思います。
キャピ子と地味子
このパートは恋愛体質で男に媚びるぶりっ子体質のキャピ子の物語、と見せて実は幼馴染の見かけが地味な地味子とキャピ子の友情物語です。
キャピ子は(幼少期の親からのネグレクトが原因っぽいですが)、孤独に怯え、愛されることに執着しまくっている女子でして(´・ω・`)
愛されたいがために、嫌われることを恐れ、他人に自分の気持ちをぶつけられず、男を機嫌よくさせる言動や振る舞いに終始してばかり。そのため、ルックスもいいしモテるにも関わらず、相手からナメられがちに…。
そんなキャピ子を見てて思ったんですけど、「嫌われたくない」「愛されたい」って気持ちは誰でもあるし、ゆえにとても共感できるんですけど、それを相手に悟られると、搾取したり、利用するヤツが出てくるんですよね〜(今回でいうと大学生のバンドマンとかがまさにそれっぽかった)。
キャピ子のエピソード見てて改めて思ったんですが、恋愛や友情で真に平等な関係性を築くのってかなり難しくないですか?
なんていうか、「嫌われたくない」「愛されたい」って気持ちが相手に伝わると、それを知った相手はたいてい(無自覚にだとは思いますが)、「コイツ、おれ(私)と仲良くしたがってるな(´ー`)」と、上から目線になっちゃう気がするんですよ。
もちろん、人によっては「自分と仲良くなりたいと思ってくれて嬉しい!」と感じて、上からどころか、ますます良いコミュニケーションを取ってくれる人もいると思いますが、それはある程度はじめから相手にポジティブな印象を持っている場合や、相当に”デキた人”の場合だと思うんですよね。
だから大抵の場合は、恋愛や友情 は上下関係ができてしまう気がします(顕在化してなくても)。
話は戻りますが、本作のキャピ子もそれがわかってるから、「相手が自分に興味がなくなってきたな」と思うと自ら別れを切り出すし、そもそも相手をそんな好きにもならない様に気持ちをセーブしてるんですよね。
逆に言えば、だからこそ結局いつも相手と通じ合えない薄い恋愛ばかりしているという結果になってしまってます。
もうね、そんなキャピ子を見てると、せつなくなりましてね…(;´∀`)
とりあえず今はルックスを武器に、自分を愛してくれそな奴と捕まえては別れて、また捕まえてを繰り返してなんとかやってるけど、「いつかルックスが落ち目になった時にあんたどうなっちゃうのよ…」と勝手にキャピ子を心配しはじめてたんですが、結果的には地味子との友情が彼女を救うという形になりました。
このパートの終盤、帰ろうと校門にいたところ「地味子が教室でキャピ子の悪口いってるよ!」とクラスメイトから聞かされたキャピ子。恐る恐る教室まで戻ると、悪口を言っていたのは別のクラスメイトで、地味子はそいつにキレながら反論していた…という感動エピソードが描かれるわけですが、これによりキャピ子は、地味子という自分を本当にわかっている、または、わかろうしてくれる人間の存在を実感するわけです。
恋愛というカテゴリでは心を満たすことができなかった彼女が、友情というカテゴリで少しだけ満たされ、これできっともう、キャピ子もあんな薄っぺらな男どもに頼ることはないさ、と謎にひと安心できた名場面でした。
あんな友が人生で1人できれもう十分っすね…(´ー`)イイナァ
撫子ちゃんと八千代くん
撫子ちゃんと八千代くんという文系(風)男女の恋物語。
撫子ちゃんは八千代くんが大好きで、何かにつけて八千代くんに告りまくるというちょっと現実離れした女子。一方の八千代くんは学校で囲碁部に席を置きどこか人を寄せ付けないオーラを出す文化系硬派な男子。
「何があっても八千代くんが大好き!」な撫子ちゃんのキャラは男性の妄想や理想を押し付けた感じがしてあまり好きになれなかったんですが、ただ、このパートが本作の「他人とわかり合うことの難しさ、そしてわかり合えた時の喜び」というテーマを一番わかりやすく描いていた気がします。
はっきりと「僕は君が好きじゃない」と言う八千代くんに、「私を好きにならない八千代くんが好き!」とそれでも告白をし続ける撫子ちゃん。
撫子ちゃんは「好き!」と、八千代くんは「好きじゃない」と、互いが自分の気持を一方的に伝え合うだけの片方向な関係性の2人でしたが、終盤に、相手の気持ちを互いがわかりあい「通じ合う瞬間」が訪れます。
本パートは「片思いが両思い」になる、というとてもベタな展開ですが、だからこそ「他人とわかり合うことの難しさ、そしてわかり合えた時の喜び」というテーマが直接的にわかりやすく描かれてました。
2人が通じ合うシーンも夕日に照らされて…というほっこりな演出で王道な感じでよかったです(*´ω`*)
殺さない彼と死なない彼女
主題にもなってる、自傷行為が癖の彼女・鹿野(リストカットをしょっちゅうするが死にはしない)と、殺すぞが口癖の彼・小阪(当然、実際は殺さない)のエピソード。
この2人はクラスでも悪い意味で浮いた存在で、だからこそ一緒にいるようになります。この手の設定だと「いやいや浮いてるって言っても、けっきょく美男美女の勝ち組じゃん…」となりがちですが、桜井日奈子の暗くてどんくさい感じの演技と、間宮祥太朗のイケメンだけどマジで嫌な奴(根はいいやつ)な演技のリアルさが、美男美女というノイズを見事に消していました。「この2人、マジでこんな感じの性格じゃね(;´∀`)?…」と思えたというか。
この2人は、会話量も少なく断片的なコミュニケーションばかりですが、実ははじめから一番「相手の気持ちを理解しよう」と努めてた2人だったりもします。
この映画で描かれる3組の中で、最終的にはたぶんもっとも互いの事をわかりあっていた2人でしたね。
映画の終盤、鹿野(桜井日奈子)が死んだ小阪(間宮祥太朗)の部屋で彼の服の匂いをかぎながら、涙するシーンでは不覚ながらこちらも泣かされました゚。・゚・(ノД`)
自分も小学生の頃に父を亡くしており、服に残った匂いで泣いた記憶事があるという完全に個人的な理由で泣いたってのが大部分ですが、それとは別に「ようやくお互いへの理解が深まりかけた時での死」ってのが本当に辛かったですね。このエピソードだけ、互いが通じ合う瞬間が相手が死んだ後に訪れて、とてもせつなかった…。
そして、他者と通じ合えた経験を糧に前を向いて歩くようになった鹿野(桜井日奈子)が大学生になって道を歩いてると、昔の自分と同じように自傷行為をする女子高校生を見つけ、その子の気持ちに寄り添いながら話を聞くところで映画が終わるんですが(その女子高生が八千代くんにアタックしてはフられ続ける撫子ちゃんだった)、いや、もう、すげえ見事な構成じゃねーかっ・゚・(ノД`)・゚・!って唸る感じでした。
まとめ
本作は「映画.comで高評価だったから見に来たけどキラキラ映画かよ…しくじったな…」という序盤の感想を見事に覆してくれた良作でした(ノД`)まさか泣けちゃう話しとはね…。
関連作品
本作の原作は、世紀末氏によるTwitter発の漫画です。
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