『ハスラーズ』の好き度
アダム・マッケイ監督の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』が大好きなので、本作も似た感じを想像したのですが、思っていたのとは違いました。
しかし、とても面白かったです。
『マネー・ショート』はユーモアをまじえつつも金融系のネタをガンガン入れてくる作りでしたが、本作は金融ネタはあまりなく、むしろ、マーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』、『グッド・フェローズ』、『カジノ』などのようにある世界の人間たちの生き様を描いた映画でした(スコセッシ作品より『ハスラーズ』のほうが描かれる期間が限定的で、雰囲気ももっとポップなんですけどね)。
『ハスラーズ』のスタッフ・キャスト
スタッフ
- 監督:ローリーン・スカファリア
- 製作:ジェシカ・エルバウム、エレイン・ゴールドスミス=トーマス、ジェニファー・ロペス、ベニー・メディナ、ウィル・フェレル、アダム・マッケイ
- 製作総指揮:ミーガン・エリソン、パメラ・サー アレックス・ブラウン、ロバート・シモンズ、アダム・フォーゲルソン
- 原案:ジェシカ・プレスラー
- 脚本:ローリーン・スカファリア
キャスト
- デスティニー:コンスタンス・ウー
- ラモーナ:ジェニファー・ロペス
- エリザベス:ジュリア・スタイルズ
- メルセデス:キキ・パーマー
- アナベル:リリ・ラインハート
- リゾ:リズ
- ダイヤモンド:カーディ・B
- ジャスティス:メット・トーレイ
- ドーン:マデリーン・ブルーワー
- トレイシー:トレイス・リセット
- ママ:マーセデス・ルール
『ハスラーズ』の感想
この間、TBSラジオの『アフターシックスジャンクション』で『ハスラーズ特集』を聴いていたら、女性エンパワーメントムービーの役割についての言及があり、前から自分が思ってたことと似ていたので、まずはその点をちょっと書かせてくださいな。
女性エンパワーメントムービーを注意深く見る理由
昨今、女性のエンパワーメントムービーが多くなってきていますが、「男性側が狙って作った、女性のストレス発散用現実逃避ムービー」なってしまっていることも多いでは、と考えていまして。
女性エンパワーメントムービーは、本来女性と男性は平等にも関わらず、女性が不当に扱われる事が多い社会で、女性の権利をまさしく強化させるための存在であるべきですが、実際は「現実は違うから、せめてフィクションの中だけでもスッキリしたい!」という願望を満たすための、「あ〜現実もこうだったいいのにな〜的、現実逃避ムービー」になってしまっている事も多いと思っています。
それこそ、女性の権利問題を真剣に考えていない男(あるいは男社会)が、「女性に権利を!って最近うるさいからさ、女性が大活躍する映画でも作ってポイント稼いでおこうぜ」と作った作品もあると思うんですよね。
それって、エンパワーメントムービーが増えた事で、やっと社会全体でも女性の権利について意識的になってきた…(いい傾向だ!)と思ったら、実はそれすらも男社会の枠組みの中で、差別構造を維持するための策に過ぎなかった…みたいな、単なる差別よりも一層タチが悪い差別構造を作りかねない、とも思うんですよ。
だからこそ、女性エンパワーメントムービーは注意深く見なきゃいけないと思うし、嘘くさいエンパワーメントムービーに騙されないように、ちゃんと女性の権利問題について制作陣がマジで考えてマジで作ってるか、ってのを観客の我々もマジで考えながら見なきゃ、と思っています。
はい、前置きが長くなりましたが「じゃあ『ハスラーズ』はどうだったの?」ってことですよね。
私としては最高でした(前置きいらなかった説)。
ジェニファー・ロペスがすごすぎた
本作は序盤から見せ場だらけです。とりわけジェニファー・ロペス演じるラモーナのポールダンスをしながらの登場シーンと、その圧倒的なカリスマ感には見てる誰もが圧倒されたでしょう。
鮮烈のポールダンスを終えたラモーナが、屋上でひとりタバコの煙を夜空に向かって深く吐くシーンまでで(つまり開始10分くらいで)、もうすでに「ラモーナ、あんたがボスだ」と誰もが認めざる得ない状況ができあがっていました。
それくらい本作のジェニファー・ロペスは圧倒的だったと思います。
序盤のメイクルームシーンが最高
個人的に序盤で一番好きなのが、ストリッパーたちが控え室で各々メイクをしているシーンです。
いざ表舞台に立つと妖艶な魅力を振りまく彼女たちが素の状態をあらわにするギャップが効いたシーンなんですが、話してる内容がガサつでまあゲスい!
むかし女性の友人から「女同士で飲んで男をディスるときって、男たちが女のこと話してるときの比じゃないくらいエグいと思うよ( ゚д゚)」と聞いたことがありますが、このシーンを見ながらまさに「これのことか(;´д`)!!」と感じた次第。
この映画は彼女たちの人生がノッているとき、落ちているとき、そのアップダウンの繰り返しを描いていますが、まさに最初のノッているときを象徴するシーンだったと思います。
男が悪く、女が正しい、という単純構造にしていない
本作は、女性がウォール街の男性たちに一泡吹かせる痛快さが魅力ですが、単に「男たちに一泡吹かせる」という構図だけになっていないのもよかったなあと思いました。
単純なエンパワーメントムービーなら「男たちに一泡吹かせる」がテーマになると思うんですけど、本作はあくまで「ある女性たちの生き様」がメインテーマであり、「女たちの友情、決裂、再生」などが描かれた作品です。
そのため男たちに一泡吹かせるのはその中の1エピソードにすぎないんですよね。
だから、逆に言えば「いやいや女だって男に負けないくらいエグいじゃん」と女性側の権利を貶めてしまいかねない展開もあったりします。正しいのは女で悪いのは男、という安易な作りにはなっていないんですよね。
でも、だからこそ前述したストレス発散を目的にしたエンパワーメントムービーとはひと味違ったリアリティがあるし、「現実もこうだったらいいのにねー」と単なる現実逃避のツールで終わらない、真に女性の強さを描いた映画になっていると思います。
とはいえ、ウォール街の男をハメるシーンは最高にアガる
先ほど”男に一泡吹かせる展開は1エピソードにすぎない”と書きましたが、とはいえ、この映画で1番と言ってもいいくらい印象的で楽しいシークエンスであることは間違いないです。
ダントツにかっこいいのはジェイローですが、彼女だけじゃなく、主演のコンスタンス・ウーのできる副参謀感や、リリ・ラインハート演じる緊張で吐きまくるアナベルのドジキャラ感、キキ・パーマー演じるメルセデスのダメンズ好き感など個性が強いメンバーが、まさにワンチームでウォール街の金満メンズたちを騙していく展開は見てて素直に楽しいです。ジェイローを先頭にチームのメンバーが編隊を組んで「ザッザッザッ」と店に入ってくるシーンなんかは、「私たち、無敵( ゚д゚ )!!」な感じで無条件にアガります。
アジア系俳優が主役というエンパワーメントになっている
そもそもですが、本作はジェイローがめちゃくちゃ目立ってるので、つい忘れがちですが主役はコンスタンス・ウー(デスティニー)なんですよね。コンスタンス・ウーは思いきりアジア系なわけで、こうしたハリウッド映画で主役を張るというのはかなりスゴイことだと思います。
これまでの潮流や慣習と違ったキャスティングは、女性エンパワーメントムービーの増加などと同じように、「時代が変わってきている」ということのある種の象徴だと感じました。
格差を扱っている映画でもある
格差をテーマにした映画は最近とくに多いですが、本作もストリッパーの主人公たちが、リーマン・ショックの原因を作った証券マンから一時的に金を奪うものの、堕ちていったのは結局彼女たち、という「持つものは勝ち続け、持たざるものは結局は負け続ける」という格差の負のスパイラルを描いた作品になっています。
彼女たちは明らかに犯罪行為をしたので当然褒められはしないですが、それでも一度這い上がって、そのあとの堕ちていく彼女たちを見ていると「じゃあ、持たざる者たちはどうやって上がればいいんだよ…」とつい考えてしまいますよね(;´д`)
そうなるとどんどんネガティブになって「支配者層はちょっとやそっとのヘマじゃビクともしないなら、この関係性はずっと続くってことかよ!」とヤケになってしまいがちですが、でもこの映画はそんな暗い着地では終わらないんです。
最後にはやっぱり「しぶとく、力強く生きていく」という選択をした彼女たち見せてくれます。
このラストが本当に良かったです。「勝ちつづけるわけじゃないけど、でも、私たちは”負け”はしないから」っていう、もう性別とか関係なくエンパワーメントしてくれるっていうか、勇気づけてくれる最高のラストでした!
コメント