『スキャンダル』の好き度
本作は”#Metoo”運動の先がけになったFOXニュースCEOのセクハラ問題に関する映画です。
希望ポストへの異動と引き換えに女性社員へ性交渉を求める、FOXニュースCEOロジャー・エイルズの悪質なセクハラが社内では日常化されていたという事実をFOXニュースが認めるところまでを本作では描いています。
一部脚色があるものの実話に基づいた話で、脚本家が同じこともあり『マネー・ショート 華麗なる大逆転』と似た構成や雰囲気の映画でした。
『スキャンダル』のあらすじ
2016年、アメリカニュース放送局で視聴率NO.1を誇る「FOXニュース」に激震が走った!
クビを言い渡されたベテランキャスターのグレッチェン・カールソンが、TV業界の帝王と崇められるCEOのロジャー・エイルズを告発したのだ。騒然とする局内。看板番組を背負う売れっ子キャスターのメーガン・ケリーは、自身の成功までの過程を振り返り心中穏やかではなくなっていた。
一方、メインキャスターの座を狙う貪欲な若手のケイラは、ロジャーに直談判するための機会を得て――。公式サイトより
『スキャンダル』のスタッフ・キャスト
スタッフ
- 監督:ジェイ・ローチ
- 制作:アーロン・L・ギルバート、ジェイ・ローチ、ロバート・グラフ、ミシェル・グラハム、チャールズ・ランドルフ、マーガレット・ライリー、シャーリーズ・セロン、ベス・コノ A・J・ディックス
- 製作総指揮:ミーガン・エリソン、ジェイソン・クロス、リチャード・マコーネル
- 脚本:チャールズ・ランドルフ
キャスト
- メーガン・ケリー:シャーリーズ・セロン
- グレッチェン・カールソン:ニコール・キッドマン
- ケイラ・ポスピシル:マーゴット・ロビー
- ロジャー・エイルズ:ジョン・リスゴー
- ジェス・カー:ケイト・マッキノン
『スキャンダル』の感想
FOXニュースの独裁構造はエグいが、普遍的な構造でもある
本ページの画像はすべて:(C)Lions Gate Entertainment Inc.
CEOロジャー・エイルズの圧倒的な独裁体制であったFOXニュース。
「有名ニュースの会社がこんな体制だったなんて…!」と私、不勉強ながらまずはここに驚きました(;´д`)
1人の人間が権力を持ちすぎると、「そいつに逆らうと大変な目にあうから従おう…」という共通認識がまわりに広がっていき、誰かが反逆したとしても後につづくものは出てこない。
そして、支配されている側=被害者たちは、”団結”ではなく”分断”していってしまうというね。そのため、そもそも反逆する人が出てこなくなり、ますます独裁者(権力者)の力が強化されるという結果に…。考えれば考えるほど恐ろしい構造です。
※これは格差社会の構図とも似てるかもしれません。格差の下側の人間が「団結」すべきなのに逆に「分断」してしまい、上側の人間の立場はより強化される…といった現象。これに近いものは『パラサイト 半地下の家族』でも描かれていましたね。
そして、こうした独裁体制は程度のこそあれ日本のメディアや芸能はもちろん、大企業から中小企業、学校の教室、家族や友達間など、さまざまな組織で見られる現象だよな…(;´д`)とも、改めて感じた次第。
この映画を見て我々は「FOXニュース内での事件」として受け取るわけですが、実はこうした出来事は世界中のいたるところで起こっている可能性が高いんですよね…。
セクハラCEO、ロジャーエイルズの手口
そんなわけで、FOXニュースではCEOロジャー・エイルズが影響力を持ちすぎてしまい、誰もセクハラを告発できない状況が作り上げられていました。
エイルズのセクハラのタチの悪いところは、「見返り」がある事なんですよね。「チャンスがもらえる!」と相手に見返りをチラつかせ、断りづらい状況を作ってから、女性に関係を迫るというやりクチ。
しかも、ご丁寧に事前に「女性同士を競争させる仕組み」も作っておき、女性の「なんとしてものし上がってやる!」という競争心につけ込める体制にしておくという周到さ。
本当にセクハラがしやすい組織作りがされています。
こんな事を考えていたら、「そういえば、以前、毎年メンバーを総選挙でランク付けしてた日本のアイドルグループも、絶対的な権力者の男がいて、アイドルの女性たちの競争心を煽る、FOXニュースと非常に似た構造になっている( ゚д゚)ハッ」ことに気が付きました。
AKBはクリーンな組織だと思いますが、それでもFOXニュースと同じ条件が揃っているので一歩間違えると、危ない状況に陥りやすい気がしました。
また、エイルズの手口でもう一つ忘れてはいけいないのは、彼は「段階を踏む」という事。
映画を見る限りでは、意外にもエイルズは女性を無理矢理襲ったり、いきなり性行為を求めたり、といった強引な事はしません。
相手が判断に迷う微妙なライン、なんていうか、はじめはグレーな言い回しで攻めてくるんです(作中ではキャスター志望の女性に、まず「脚のラインを確認するためスカートを上げてくれ」と求める)。
女性側は「変だな…」とは感じつつも「まあ、でもくらいはやんなきゃいけないのか…?」とその場では錯覚してしまうような、はっきりと断罪しにくいレベルから攻めるんです。
そして、相手が最初の要求を許容したら、そこからどんどん要求をエスカレートさせていく、というのが彼のやり方なんですね。
このやりくちは、作中、エイルズ以外の男性にも見られます。
誰か忘れてしまいましたがメディア関係者の女性が過去に男にセクハラをされた際の回想シーンでも、男は「君の部屋に行きたい、わかるかい?」という遠回しのいい方ではっきりとは言わずグレーに攻める手法を見せます。
このグレーな言い回しから攻めるやりクチは、事件が表面化しても男性側が簡単に有罪にならないようにするための、一種の男性側の防御策だと考えられますが、それに関連してもう一つ、被害者女性に「自分にも落ち度があったのでは?」と思わせる効果もあったと思います。
つまり女性側に「いやいや、相手もそこまで露骨な要求をしていない→私がハッキリNoと言わなかったのも原因?」と思わせる効果を狙っているということです。
相手の良心につけ込むマジで最低なやりくちですが、こういうやりくちをやってくるヤツはセクハラに限らずいますからね…。ほんと怖いです…。
なんかエイルズのヤリクチをこうやって改めて分析してみると、日本で起きた凶悪な監禁事件、洗脳事件とかとも近い構造を持っている気がするんですよね。
1人の凶悪犯が「見返りをちらつかせ」「段階を踏んで」で、とある一家などの集団に入り込み支配的に振る舞う→反逆したメンバーには制裁を与える→被害一家のメンバーは制裁を恐れ、団結せず逆に対立(分断)していく→凶悪犯は支配力をますます高めていく、という構造。
構造だけ見たら北九州監禁殺人事件などにも似てる気がしました。それってつまり、とても恐ろしいことだと思います(;´д`)
エイルズの行為は「セクハラ」というか「脅迫」に近い
本作のの予告や特集などではエイルズのしたことは「セクハラ」と表現されていますが、これにちょっと違和感を感じます。
彼がやっていることは、成長したいと思っている人間の弱みにつけこんで最終的には性行為を求めるわけですから、もう脅迫に近いと思うんですよね。
セクハラを軽視するわけじゃないですが、セクハラは範囲が広く、言葉によるものから直接手を出されるものまでいろいろあるため、セクハラと聞いて受け取る印象は人それぞれ。軽くとってしまう人もいると思うんですよ。
でも、エイルズは、本心では嫌がってても相手が断れない状況を作って手を出すわけですから、悪質度が高いと思います。
揺れ続けるカメラ、急なアップが印象的
本作は基本的に手持ちカメラで微妙に揺れてるシーンが多いです。
どう解釈するかは人それぞれですが私には、「FOXにいる以上、エイルズ次第で人生が変わってしまう彼女たちの不安定さ」や「エイルズの要求を断ってしまったらどうなるか、その不安や迷い」を表現しているように思えました。
また、「手持ちカメラの揺れるショットからの急なアップ」も多く、これらの画作りが物語のリアリティや、事態が急に動くかもしれないといったドキュンメタリー的性質を強めていたようにも思えます。
コトが起こるまで、その裏側で何があったのかを見る映画
脚本が『マネーショート 華麗なる大逆転』と同じチャールズ・ランドルフということで、本作にはたしかに似た雰囲気がありました。
一部が脚色ながら基本は事実にもどづいた話である点、複数の主人公たちのエピソードが並行して語られる点、そして別々のルートをたどっていた者たちが途中から交わっていくという流れも共通しています。
また、両作とも事実として何が起きるかを知っている我々が、コトが起こるまでの経緯を見る構造になっており(『マネーショート』では「リーマンショック」、『スキャンダル』では「FOXニュースでのセクハラ告発→和解金支払」)、爆弾が”爆発する未来”を知っているからこそ、何気ないシーンの持つ意味も変わってくるし、その時が近づけば近づくほど心拍数が上がってくる、独特の緊張感がある映画になっていました。
また、起こった出来事を大げさにしたり、逆に矮小化したりもせず「世間に正しく伝えよう」と社会派映画としてのポリシーを感じる映画という点も両作は同じだったと思います。
俳優陣、特にシャーリズ・セロン、マーゴット・ロビーが光っていた
本作は、登場人物が実名になっており、メインキャストの顔も特殊メイクで本人に近づけられています。
主要キャスト3人はいずれも素晴らしかったですし、ロジャー・エイルズ役のジョン・リスゴーも印象に残りましたが、個人的にはメーガン・ケリー役のシャーリズ・セロンが特に素晴らしかったと思います。
シャーリズ・セロン演じるメーガン・ケリーはエイルズの被害者の1人でもあり、大統領選の際にドナルド・トランプとも激しい戦いを繰り広げた人物。
彼女自身、エイルズや男性社会からの差別的な行為に苦しんだ経験があるものの、(良くも悪くも)その経験が今のキャリアを築いた部分もあり、セクハラ告発の原告でもあるニコール・キッドマン演じるグレッチェン・カールソンへの協力に葛藤します。本作のメーガン・ケリーは強い女性ですが、決して理想化されたキャラクターではなく、憔悴したり、自分の立場やキャリアを守るために保身に走りもする、そんな人間的なキャラクターであり、それをシャーリズ・セロンが巧みに演じていました。
また、個人的には複数の人物を合わせたとされるマーゴット・ロビー演じる創作キャラクターのケイラ・ポスピシルという人物も印象に残りました。彼女はもっとも深いレベルでエイルズのセクハラ被害を受けてしまいます。
彼女がエイルズにセクハラを受けるシーンは本作でいちばんショッキングですが、後半の彼女が涙ながらに同僚へセクハラ被害を告白するシーンとあわせて、「こうした行為がいかに悪質か」というのを見ている側に強く知らしめるシーンでもありました。
ケイラはケリー、グレッチェンに比べもっとも「被害者」として終わってしまうキャラクターで、いわば作中で「名前のあがらなかった被害者たちの代表」のような存在です。
彼女はラストこそ「強さ」と「しぶとさ」を見せてくれ、見ている側を勇気づけてくれますが、同時に実際には悔しいままで終わってしまった被害者の方たちも多いはずという事を、観客に知らせてくれる存在でもありました。
こうした問題は今も依然として社会に残っている、というのは忘れずにいたいと思います。
まとめ
いつものようにダラダラと感想を書きましたが、本作は今年とくに多く上映されている「女性エンパワーメントムービー」の代表格ともいえる映画であると同時に、社会派エンタメとしても、非常に面白い作品になっていると思います。
ぜひ見てみてくださいヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
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